医局の紹介 医局の紹介

基本理念

奈良県立医科大学精神医学講座は昭和24年3月31日に金子仁郎先生が助教授を発令された日を以て神経精神医学講座を開講日としています。金子仁郎先生は昭和28年に教授に昇任されましたが、大阪大学に転任されたため、昭和32年に大澤安秀教授が、昭和40年から有岡巌教授が着任されました。その後、昭和52年に井川玄朗先生が助教授として着任され次いで教授に昇任されました。平成8年に岸本年史先生が教授に昇任され、令和3年に至るまで教室を率い、臨床・研究、人材育成において教室を飛躍的に発展させました。そして、令和5年11月より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所より岡田俊が着任し、今日に至ります。

1. 高次の精神科医療機関として
奈良県立医科大学精神医療センターは、総合病院精神科として高度医療を担う大学病院としての役割と、県立病院精神科として奈良県の精神科医療の中核を担うという両面を有している。365日24時間体制で、緊急措置鑑定及び同入院患者を受け入れており、奈良県の精神科3次救急の中核を担っている。同時に、身体合併症(妊産婦、透析、がん治療、移植など)、難治例(電気痙攣療法や難治性統合失調症患者治療薬クロザリル投与の対象患者)を受け入れている。

2. 国家研究の中核施設として
救命救急センターと連携した自殺対策国家戦略研究(ACTION-J)の全国五施設の一つの中核施設として、国家的規模のアルツハイマー病研究プロジェクト(J-ADNI)の拠点病院として参画した。現在、精神障害者の禁煙対策、発達障害の支援、思春期青年期の精神障害の早期介入研究、精神障害者の認知リハビリテーション、強度行動障害の支援ニードの把握など、厚生労働省関係の臨床研究や事業をおこなっている。

3. 研究拠点として
動物研究やiPS細胞を用いた研究などの基礎的研究と同時に画像研究や脳生理学的研究、認知リハビリテーションなど人を対象にした研究を並行しておこなっている。研究結果を当事者に還元することを念頭に置き、基礎と臨床にまたがるトランスレーショナルリサーチを進めている。

4. 認知症基幹病院として
認知疾患医療センター基幹型を開設し、地域での認知症の啓発活動及び県下認知症疾患センター地域型3施設とかかりつけ医と連携し、認知症の治療とケアに貢献している。

5. 児童思春期専門中核機関として
多数の子どものこころ専門医等の児童精神科医が在籍し、専門外来における診療を提供しているほか、入院診療にも応需している。また、奈良教育大学、奈良県心身障害者総合リハビリセンターと協力して、注意欠如多動症(ADHD)などの神経発達症に対して、ペアレントトレーニングを実践している。

6. 回復を目指した取り組み
救急急性期から作業療法を行っており、従来は慢性患者対象であるところの作業療法の新しい形式についても開発している。若年者を対象としたデイケアを開設しており、また、勤労者のためにうつ病リワーク・プログラムを実施している。

7. 災害時の精神科医療の提供
平成23年の台風13号の被害にあたっては、こころのケアを目的に十津川村に医師を派遣した。また、阪神淡路大震災および東日本大震災においては、医療班やこころのケアチームを派遣した。今後も必要に応じて可能な災害時の支援を行っていく予定である。

8. 新規治療法開発への貢献
大学病院として新薬開発治験の全国基幹10施設のうちの一つであり、治験第1相から第3相まで患者の協力を得て実施している。企業や研究機関との共同研究も積極的に実施し、精神科医療の新たな展開に貢献できるよう努めている。

9. 人材育成と専門性の高いチーム医療体制の構築
精神医学は、狭義の精神疾患の治療のみならず、医師として患者理解や対応の基本姿勢や倫理をなす学問でもあり、医療人にふさわしい医療・倫理観を体得できるように医学部生ならびに臨床研修医へ指導を行っている。また、関連病院と連携して、精神科領域専門医研修プログラムを実施し、後期研修医の指導を実施している。また、奈良県立子どものこころ専門医研修施設群における子どものこころ専門医養成プログラムを実施している。医療の提供に当たっては、本学の精神医療センターには常勤の精神保健福祉士、臨床心理士/公認心理師、作業療法士が勤務し、多職種による専門性の高いチーム医療などを行っている。



良き医療人の育成のために最も大切なことは医療人にふさわしい人格と倫理の涵養であり、そのためには、当事者やその家族とともに歩み、当事者や家族の視点に立って考えることができるかにかかっています。医師が最善に医療を提供するためには、専門家として患者の症状だけでなく、患者を取り巻く状況を適切に把握し、最新の医学知識をもとに最善のプランを提供していく必要があります。そのなかでは、数多くの臨床疑問にも直面するでしょう。その疑問に答えを出す既存の論文を検索したり、同僚や指導医とともに議論することも大切です。また、医療の実践においては、多職種連携を進め、チーム医療を適切に指揮していくことも大切です。しかし、患者の個々の状況に応じた答えは、いまだ見いだされていないこともあります。それこそがリサーチクエスチョンの出発点なのです。精神疾患は、脳の働きに起因する神経生物学的疾患ですが、脳だけで語りきれるわけでもありません。精神疾患の病因・病態の解明と克服、新規治療法の開発といった最先端の研究と、医学的知見に基づく最善の治療やガイドラインを実装・普及、支援ネットワークの構築、精神科リハビリテーションは、車の両輪のように相互に連携し合いながら発展していく必要があります。

奈良県立医科大学精神医学講座は、基礎研究と臨床実践のバランスに富んだ取り組みを重ねてきており、児童から成人、高齢者までライフステージを通した精神科医療を学ぶことのできる精神医学講座であると自負しています。

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