奈良県立医科大学精神医学講座では、基礎研究から臨床研究、専門外来まで幅広く、各専門グループに分かれて臨床と研究を行っています。
神経科学グループ
当グループでは、マウスやヒトのサンプルを用いた基礎研究を行っています。
マウス研究では、主に社会的隔離モデルマウスなどの疾患モデルマウスを対象に行動実験を行っています。電気生理学的手法としてホールセルパッチクランプ法を用いて、行動実験の結果と組み合わせて研究を進めています。
また、自閉スペクトラム症や統合失調症患者さんの炎症・免疫異常に着目し、末梢血から誘導したマクロファージを用いた培養研究も行なっています。
認知症・画像研究グループ
当科は奈良県認知症疾患医療センターの基幹型指定医療機関として、認知症疾患の早期発見・治療や鑑別診断を行っています。認知症疾患医療センター外来では、主に当グループのスタッフにより頭部MRIやSPECT、DATスキャン等の画像検査、神経心理検査、介護負担度の評価などによる多面的な評価を行い、より正確な認知症の診断や個々の患者の問題点の評価、治療や適切な社会サービスの導入へと結びつけています。
認知症では物忘れなどの中核症状とともに、うつや妄想といった様々な行動心理症状を呈します。これらは単一の原因ではなく、認知機能低下、介護環境など患者を取り巻く環境が複雑に交わることにより症状化することが知られます。当グループでは認知症疾患医療センターで得られた知見やデータをもとに、MRIやSPECT、神経心理検査を用いてAlzheimer病やLewy小体病などの認知症疾患を中心に、主に行動心理症状の発現の病態基盤を解明する研究を行っています。
また、当グループでは自閉スペクトラム症、注意欠如多動症や摂食障害などの精神疾患について、他グループとも協力して研究に取り組んでいます。これにより、分子生物学や電気生理など基礎実験より得られた知見と、ヒトにおける脳構造や機能、臨床症状との関わりについて、MRIを用いて脳を構造的(T1強調画像および拡散強調画像)、機能的(安静時脳機能画像)に評価することや、MRSにより脳代謝物濃度を評価することで、精神疾患の病態基盤の解明を目指しています
児童青年精神医学グループ
奈良県立医科大学は、多数の児童精神科医が在籍し、児童青年精神医学の臨床・研究・人材育成の拠点となっています。日本児童青年精神医学会にも理事長、複数の理事・代議員を輩出しているほか、南近畿児童青年精神医学会の事務局を設置し、地域における児童青年精神医学の人材育成、連携構築に関わっています。臨床においては、専門外来をもち多職種協働や地域連携のもと専門的診療を行っているほか、必要に応じて入院治療も提供しています。関連病院に勤務する医師や公認心理師/臨床心理士なども含めたグループメンバーが集まり、毎月事例検討などの勉強会を行っています。
研究においては、眼球運動、事象関連電位や自律神経解析などの精神生理学、自閉スペクトラム症や摂食障害の脳画像、神経発達症の近赤外線スペクトロスコピィ(NIRS)を用いた研究を行い、神経発達症のバイオマーカーの開発に取り組んでいます。また、ペアレントトレーニングやソーシャルスキルトレーニングに関する報告、子ども、特に神経発達症のある子どもの研究や治療への同意能力に関する研究を行うほか、神経科学グループにも所属し自閉スペクトラム症モデル動物などを用いた基礎研究も行っているメンバーもいます。また、他機関と協働のもと、稀なゲノムコピー数バリアント(CNV)を用いた自閉スペクトラム症の遺伝子研究、神経発達症や精神疾患のプロテオーム解析も実施しています。
社会精神医学グループ
社会生活では生涯を通じてどのライフステージにおいても様々な問題が存在します。これらの問題は患者のみならずその家族の生活に及ぼす影響も大きく、社会経済的なインパクトも甚大です。しかもそのほとんどが医療者だけでは解決が困難な問題であり、様々な専門職、地域社会の緊密な連携が求められています。精神疾患を有する当事者が、安心して共生できる社会の実現をめざし各専門職が連携することにより、社会の成長と成熟を促していくことが大切です。社会精神医学はまさにこのような役割を果たすべく重要な分野であると考えています。
これらの役割を踏まえて、以下のような臨床研究に取り組んでいます。
- 国立精神・神経医療研究センターが中心の「精神疾患レジストリの構築・統合により新たな診断・治療法を開発するための研究」に加わり、精神疾患の病態を明らかにし、新たな診断法や治療法の開発につなげるための患者レジストリ(診断、治療内容、治療経過などを管理するデータベース)の構築に参加しています。
- 厚生労働科学研究において、強度行動障害(チャレンジング行動)のある知的・発達障害者への医療従事者研修を実施し、当事者が必要時に医療を受けられる、また、医療と地域における支援との架け橋となる社会の実現に取り組んでいます。
- AMED研究では、国立精神・神経医療研究センターが実施する児童青年を対象にしたオンラインメンタルヘルスケアシステム(KOKOROBO-Junior)の開発と実装に取り組んでいます。
リハビリテーショングループ
奈良県立医科大学精神医療センターでは、病棟内作業療法や各種の精神疾患に対するソーシャルスキルトレーニング(SST)を行っているだけでなく、大規模デイケアを有しており、社会参加に向けたデイケアやリワークを実施しています。さらに、ギャンブル依存などの行動嗜癖にも対応し、より良い治療につなげるためにも臨床研究を開始しています。
当研究グループは、多職種(医師、看護師、公認心理師/臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士)で構成されているのが特徴です。多職種により、多面的に日常生活のしづらさを評価し、仲間作り、生活リズムの改善と体力向上、就労や就学・自立的生活の準備を促し、各患者に応じたリカバリーを支援しています。
自殺予防グループ
当研究グループは、自殺未遂患者のカルテ調査や介入研究を中心に活動しています。医師、看護師、精神保健福祉士が協働し、救急医療における自殺再企図防止を目的とした継続支援に取り組んでいます。
自殺未遂者等支援拠点医療機関整備事業を継続して実施しており、自殺予防や啓発を目的とした講演会や研修会の企画・開催を通じて、地域における支援体制の向上にも努めています。また、奈良県立医科大学、和歌山県立医科大学、近畿大学で関西自殺未遂者連絡協議会を設置し、自殺対策への情報共有、可能な連携を図ることで、自殺対策のより実効性ある対策に向けて取り組んでいます。
人工知能・情報処理グループ
当研究グループは、PythonやR言語を中心としたプログラミング技術を基盤に、データ処理から統計解析、可視化や報告書作成等まで一貫した情報処理を行い、他の研究グループに対する技術支援を幅広く提供しています。
さらに、大規模言語モデル(LLM)をはじめとする人工知能技術に、構造化データやオントロジーによる体系的な知識表現を組み合わせ、精神医療領域への応用開発にも取り組んでいます。医療テキストや精神科面接・精神療法に含まれる言語的情報を高度に解析する手法の開発、診療支援に資する情報基盤の整備などを通じて、精神医療におけるコミュニケーションや意思決定を支える新たなアプローチの創出を目指しています。
